
「記憶に頼るだけではなく、記録に残すこと。これがとても大きな意味を持つのだと実感しています。」
そう話してくださったのは、絵てがみ作家のいわいまさとさん。
『おぼえていてね』『忘れないでね』『おばあちゃんのひとりごと』──温かい絵と言葉で綴られた“ほっこり&ほろりんちょ”シリーズは、個展を中心に多くのファンの心をつかみ、出版されるたびに、100冊以上を売り上げる人気作となっています。
今回は、そんないわいさんに、「作品を通じて伝えたいこと」、そして「本という形にすることの意味」について、じっくりとお話を伺いました。
── 絵てがみを描き始めたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
パソコンで印刷した文字ではなく、人が手で書いた文字の方が人の心に訴えると分かったからです。
仕事でアルバイトの人に連絡事項を伝えるとき、最初はパソコンで打った文章を使っていたのですが、誰も読んでくれませんでした。そこでペンで書いてみたら、みんな読んでくれるようになった。そこが原点です。
やっぱり手書きの文字だと読んでもらえるんですね。その違いには本当に驚きました。

── 日頃、制作活動はどのように時間を作っていらっしゃいますか?
今は定年退職していますので、朝5時に起きて、5時から6時ごろに描き始めます。朝ご飯のあともまた続けることが多いです。夢中になってしまうと、途中で止まらなくなることもありますが、どんなに遅くても夕方6時には終えるようにしています。
旅行や外出もありますが、それもネタ探しのようなものです。遊びに行くことも作品づくりの材料になる。食べたことや見たことをそのまま描くことが、仕事であり楽しみにもなっています。
── もう10年以上、毎日描き続けていらっしゃいますが、その秘訣は何でしょうか?
やはりFacebookの存在が大きいです。私はこれまでに4,400日以上、途切れることなく投稿を続けてきました。自分には特別な才能があるわけではありません。ただ、若い時からコツコツと続けることが得意だったので、それが自然に「毎日描く」という習慣につながったのだと思います。
大切なのは、とにかく前に進むこと。コツコツでもいいし、ダラダラでも、よちよちでもいい。どんな形でも少しずつ前に進んでいれば、それで十分だと思っています。逆に、後ろに下がってしまうのはよくない。だから私は、ただコツコツと前に進み続けているだけなんです。
── 作品を通じて伝えたい「根っこの思い」は?
私の存在意義(Purpose)は、「縁は円」だと考えています。ご縁が円のように丸くつながり巡っていく。その円の中で、老若男女さまざまな人たちがうまくつながり回っていくことを大切にしています。これが私の根っこの思いですね。私は「縁は円」を大切にしながら、作品づくりに取り組んでいます。
そして「ほっこり&ほろりんちょ」。これは、私の果たすべき役割(Mission)だと思っています。ご縁を通じた出会いの中で、心がほっと温まったり、じんわり涙したり──そうした気持ちにつながっていくことが、私の思い描いていることです。

── 出版を通じてご自身の意識や気持ちに変化はありましたか?
自分の作品を本にしたら、家族だけでなく多くの人が共感してくれました。作品を描いて気づいたのは、それが単に自分や自分の家族だけの体験ではない、ということです。つまり、多くの人に共通する体験や経験がそこにあると気づいたのです。だからこそ、本を読んで共感していただけたのだと思います。
しかし、そうした日常の小さな出来事は、意外と誰も記録に残していません。たとえば、子どもが生まれたとき、おっぱいをあげていたら乳首をかまれて痛かったことや、お風呂に一緒に入ったとき、赤ちゃんが口をとがらせた表情をしたこと。妻も母も祖母も、みんなが体験してきたのに、どこにも書き残されていない。そして男の私は知らなかった。
だからこそ「形にして残す」ことが大切だと思うのです。そうした出来事を記録することは、生きてきた証を形にすることに他なりません。大袈裟かもしれませんが「自分が生きていた証を残したい」という思いは、誰もが心の奥に持っているのではないでしょうか。
記憶に頼るのではなく、記録に残すこと。これがとても大きな意味を持つのだと実感しています。
── 本を出版して、どんな反響がありましたか?また、どんな方が本を購入されたのでしょうか
読んでくださったのは、中高年の方が中心でした。特に女性が多く、「自分が読んだ後に娘に読ませたい」「プレゼントにしたい」といった声を多くいただきました。自分だけのものとして読むのではなく、大切な家族や知人と共有したいと思ってくださる方が多かったのが、とても印象的でした。
また、『おばあちゃんのひとりごと』では、「まるで自分のことが書かれているようだ」と感想をくださる方が数多くいらっしゃいました。ご自身の体験と重ね合わせながら読んでくださった方が多かったように思います。
── 4冊目にあたる『のれんをくぐった猫』はどんな作品ですか?
これまでは妻、子供や母、祖父母のことを書いてきましたが、今度は自分自身の体験を書いてみようと。私はお酒が好きで、若い頃、飲みに行って乾杯してべろべろに酔っ払い、家に帰った思い出がたくさんあります(笑)。
それを一冊にまとめたのが本作です。いわば私の自分史のひとつですね。きっと同じような経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。楽しんでいただければ嬉しいです。
── SDGsのご活動についても教えてください
私は、子供たちが身近に感じられるよう、絵や言葉でSDGsを伝える活動をしています。幼稚園などで配布したり、教育委員会で紹介したりしています。大人はなかなか行動を変えるのが難しいこともありますが、子供たちならすぐに反応してくれる。未来を担う子どもたちに託すことが大切だと思っています。
── これから出版を考えている方へメッセージをお願いします
まず一つ目に言えるのは、出版することで「生きた足跡」を残すことができるということです。小さな一冊であっても、自分が確かに生きてきた証となり、その本に書き描かれた思いは、子どもや孫、家族に伝わるだけでなく、ほかの人に読んでもらえる可能性もあるわけです。
二つ目は、出版は社会貢献のひとつになるということです。本を通じて誰かが考えるきっかけになるかもしれないです。私は売上の一部を寄付する活動も行っています。それもまた、自分にできる社会貢献だと思っています。
三つ目は、喜びを人と分かち合えることです。本を出したとき、個展のお手伝いをしてくれた人たちと一緒に、その喜びを共有できました。出版を通じて縁が広がり、見に来てくれた人や手に取ってくれた人とのつながりが生まれる。そうした広がりが、大きな喜びにつながっています。

いわいさんの絵てがみは、個展の場や本という形を通じて、人々の心に温もりを届け続けています。
2025年10月10日から13日まで、山形県酒田市で30回目の個展を開催。さらに11月13日から16日には、東京都町田市にて合同展が予定されています。
心から楽しみにしています。
絵てがみ作家。1960年、新潟県長岡市生まれ。千葉県市川市で育ち、38年間の会社員生活を経てフリーランスへ。CSR部門でSDGs・ESG啓発を担当した経験を持ち、定年退職後に絵てがみ作家として活動を本格化。
2010年頃から「絵と言葉を添える」作品づくりを始め、各地で個展を開催。2021年には日本文芸社より著書『筆ペンだからすぐ描ける ほっこり絵てがみ』を出版。以降、自主出版による「ほっこり&ほろりんちょ絵てがみシリーズ」を展開し、現在までに3冊を刊行。個展ごとに100冊以上を売り上げ、現在4冊目を制作中。
Facebook @masato.iwai3
Instagram @hokkori0916
【著書】
・ほっこり&ほろりんちょシリーズ
・筆ペンだからすぐ描ける『ほっこり絵てがみ』(日本文芸社)
※本記事は、グラフィー出版のサポートを通じて出版された方へのインタビューです。
いわいさんのように、ご自身の作品や思いを本という形に残したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。